癖の深層心理vol.4:本当に私たちは忙しいの?(心理学的要因)

私達が普段気づかず使っている「口癖」は無意味な音の羅列ではなく、実は私たちの潜在意識を知る手がかりが隠されている「磨かれていない原石」です。口癖から私たちの無意識にある思いを知ることができるということを3回にわけてお話してきました

前回のコラム
1.口癖の深層心理vol.1:あの一言が人間関係と未来を変える
2.口癖の深層心理vol.2:心の主導権は無意識にあり?
3.口癖の深層心理vol.3:本当に私たちは忙しい? (生物学的・社会的要因)

さらに、現在無意識的に使っている「日常の言葉」を意識的に変化させるだけで感情、思考、行動の変化を感じることができます。あくまで万能の方法ではなく一部の口癖に言えることですが、もしかしたら口癖分析・改善は自己成長の最も安全で効果的な方法かもしれません。

忙しい心(個人的要因)

「最近忙しくて。。」という言葉は「こんにちは」と同じくらいの頻度でよく聞く言葉の一つですが、この言葉の中にはどんな思いが詰まっているのでしょうか?今日は前回の続き「忙しい」言葉の中にどんな心理的背景が潜んでいるのかを心理学的に分析していきましょう

1. いい訳?

少なくとも日本文化では「忙しい」はよい意味で「いい訳」として使うことができます。「忙しくて連絡できなかった」「ちょっと忙しくてね」という理由が許される社会に住んでいます。なので、私たちは積極的にこの言葉を使い、相手も積極的に受容し、この言葉が潤滑油となって人間関係をスムーズにしている面があります。

確かに世の中には分単位のスケジュールをこなす「本当に時間がない人」もまれに存在しますが、実はそうでもないことがほとんどのようです。ではなぜ忙しく感じるか?それは、時間は人によって「流れ方」が違うため、実際の活動時間よりも心的時間の長さにより決まるということです。

私たちは情熱や興味があることは少々無理してもなんとか時間をマネージし、それに喜びすら感じます。一日終わった後は「忙しかった」という感情よりは「満足感」や「充実感」が優先します。

ところが、興味がなくなったとたん、たった10分でさえも、「忙しいのにこんなことに時間を割かなくてはいけないとは!」と、どんなに短い時間であっても苦痛が私たちを襲います。

つまり、冒頭の「忙しくて電話できなかった」の心の内を翻訳すると「優先順位が低いんです」と言い換えることができます。

そして注目したいのは、ここでの問題が「優先順位」の問題ではなく、「言葉と心が一致していない」ところにあることです。

私たちの心は、言葉と心の不一致があるとそこに「違和感や気持ち悪さ」を感じ、そしてそれが度重なると「ストレス」として心や体にたまっていく傾向があります。困ったことに、それらは自然には解消されず心に着実に蓄積されていきます。2500年前にそのことにすでに気が付いていた釈迦は「言葉と心を一致させない限り『苦』から解放されない(正語)」と語っています。言い換えると、不一致な言葉はちょっとした相手と自分への「嘘」になります。これが「本当の私」は気づいていて、この不一致がつらい、というんですね。

では「忙しくて連絡できなかった」という言葉を、どう言い換えたら心と一致するものになるでしょうか?それは「事実を伝える」こと。この場合はまずは、「電話しなくてごめんね」と、「電話しなかった」という事実を伝え、それに対し丁寧に誤り、これ以上は何も言わない、言い訳しないのが自分と相手への真摯で正直な態度、であり、得策と言えます。

(ここで「電話できなくてごめんね」はおすすめできない言葉です。「できない」は要注意な言葉。何故かって?詳しくは過去の記事を参照ください。口癖の深層心理vol.2:心の主導権は無意識にあり?

オーストリアの精神科医で、アドラー心理学の創始者アルフレッド・アドラーは、「忙しくてできない」という心構えに対し、なかなか厳しいことを言っておられます。アドラーによると「忙しいからむり」という理由はすべて「いい訳」だと、きっぱり言い切っています。

いろいろ理由をつけて「だからやらない」と言っているだけだと。仕事、交友関係、家族関係、自分の人生、これらに向き合わず口実を設けて回避しているだけだと。「人生に嘘」をつかないことがウェルビーイングの秘訣で、この場合の嘘とは口実を設けて人生の課題から逃れようとすること、だと。なかなか厳しい言及です

心と言葉が一致しないとき、人は無意識レベルでストレスを感じます。「忙しいからできない」ではなく「忙しいからしない」という自ら責任ある選択をしてみましょう。そうすることでこれは解消されます。

2.他者評価

「毎日忙しくて、バタバタで、なかなか時間ないんです」と人が言えば、たいていの人は「それは大変ですね」と同情したくなるようです。この場合「忙しい」は「他者評価」や「同情」を得るための道具になっています。

アメリカの心理学者マズローによると私たちには「承認欲求」という強い欲求がもともと備わっていて、他の人から自分がすばらしい人だと(経済的、物理的、精神的、社会的に)認められたい、という欲求がもともとあると言います。

私たちは生まれてすぐは身体的欲求(空腹、排泄、睡眠、スキンシップ)が満たされると満足し、そこに「幸せ」を感じます。ところが、言葉を覚え始め自分の脚で歩けるようになってくると、身体的欲求だけでは満たされず、「〇〇できたからすごい」「えらいね」「よく気がつくね」といった「誉め言葉」を求めるようになってきます(承認欲求)。他人からほめたり認められたりすることで、「自分はこの人(社会)にとって重要な人物なんだ」という満足、幸せを感じ、そこに重きを置くようになってきます。

この視点から見てみると、この場合の「忙しい」の意味は「私こんなにがんばってるんです、なので評価してください」と言い換えることができます。

*マズローの欲求五段階説:
人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5つの階層に分かれているという理論です。 これらの階層はピラミッド状になっており、低い階層の欲求が満たされることによって次の段階の欲求を求めるようになります

3. 自己アピール

「ほんと忙しいんです」と繰り返している時、心の中では「生き生きと過ごしています」「私の人生ひっぱりだこで充実しているんです」「私、有能で人気者なんです」と自己アピール、自己顕示したい気持ちがどこかにある場合があります。これは承認欲求の一つです(もちろん無意識です)。

つまりこの場合の「忙しい」は「こんなに頼られて人気な私、どうか評価してください」という意味が含まれ、「自虐自慢(卑下しながら自慢する)」とも解釈できます。

4. 罪悪感

「働いていないと価値が少ない」という価値観がある時代・文化背景では、暇であることに罪悪感を感じる傾向があります。日本文化は、「忙しいけど時間を作る」という態度が評価されることが多いですね。何かしていることに重きを置き、「忙しい」と言うことで自尊感情を感じる、そんな文化背景があります。

この場合の「忙しい」は「私はちゃんと働いているんです」という罪悪感、無力感、無価値観を感じないための「防衛手段」、「自分を守るための行動」と言っていいでしょう。

5. パーキンソンの法則

心理学では「仕事は、与えられた時間の長さいっぱいまで膨張する」という法則があります。これは「パーキンソンの法則」と呼ばれる法則で、例えば、30分でできることでも、60分の時間があると、結果的に60分かかってしまう、という私たちの心理傾向をさします。私たちは物事に時間制限を設けないと、必要以上の時間を費やしがち、ということです。

仕事が次から次へと舞い込んできて、時間がない、忙しい!と感じた時は、もしかしたら、どこかで時間を多めに設定し使い切っている可能性があります。その場合はあらかじめ予定よりも短めに時間設定し時間管理する力を身に着ける必要があるかもしれません。残った時間はリラックスに使いましょうね。

・「忙しい」という言葉は大変便利で印象もいい言葉のようですが、生物学的、社会的、心理的要因が隠されている、複雑な言葉だということが分かりました。たとえ社会が許容してくれても、「忙しくて」の一言が知らず知らず心の奥深くにストレスとしてたまっていっているとしたら、それは避けたいものです。

でもこんな心の背景は読み取れない?
ですよね。

まずは少し練習が必要です。初めの第一歩として、まずは「忙しい」と言いかけたら違う言葉で置き換えてみましょう。具体的な出来事を伝えるのは一番簡単です。「元気?」「うん、元気だよ。今日は1時から新しいプロジェクトのプレゼンをするんだ。緊張するよ。」。より具体的な出来事とそれにたいする気持ちをそのまま表現してみましょう。言葉と心を純粋に一致させる努力をしているうちに、自分の心が見えてきます。そして自分の心が分かると相手の心が分かります。まずは足元から。

では、今日もみなさんの健康を祈って

<参考資料>
1.語源由来辞典 https://gogen-yurai.jp/isogashii/
2.出典:独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
https://www.jetro.go.jp/world/holiday.html
3.2018年労働政策研究研修機構の国際労働比較によると、
4.エクスペディア「世界16地域 有給休暇・国際比較調査 2022」を基に作成
https://www.expedia.co.jp/stories/vacation-deprivation1-2023/
5.GLOBAL NOTE
https://www.globalnote.jp/post-14269.html


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