「喜び」があなたの「幸せ」を邪魔する!?:一人でもできるカウンセリング法「感謝の日記」

「幸せになりたい」

多くの人がそう願うなか、意外な事実が心理学の世界から聞こえてきます。それは、「喜びや幸せだけがウェルビーイングではない」ということ。

そして、もっとバランスとれ持続可能な感情があります――
それが「感謝」。

「…心がバラバラになるような時期に、薬も効かず、話す気力もない。そんなとき、夜ノートを開いて書いた『感謝』が、私を一晩支えてくれた」

これは実際に私が現場で出会ったクライアントの声の一つです。

今日は「幸せ」と「感謝」の違い、一人でできる簡単なカウンセリング法「感謝の日記」について、心理療法と内観の視点から紹介します。

・気分の浮き沈みが激しい人
・人間関係に疲れている人
・自己肯定感が低いと感じている人
・夜眠れない・寝つきが悪い人
・日常がつまらない・やる気が出ない人
・カウンセリングやセラピーに通う時間・余裕がない人
・不登校や引きこもりの子ども・親御さん
・心身の不調(高血圧、不眠、慢性疲労など)を感じている人

に特にお勧めです。是非最後までお付き合いください。

研究で分かってきた「喜びが幸福をもたらすとは限らない?!」

一般的には「喜び」は幸福を表すポジティブ感情とされ、長寿や心健康に関連があるとされています。一方、怒りや敵意、心配や恐怖などのネガティブ感情は、血圧の上昇、心拍数の増加を引き起こし心臓疾患などその他さまざまな疾患とも関連があることが研究で明らかになってきています¹。

ところが、最近の研究では、「喜びや幸せ」という感情でさえ、過剰になると心のバランスを失うネガティブな面をもつと指摘されはじめました²。

人は喜び過ぎると心の“余裕”がなくなり、視野が狭くなるため、偏見の目て人や社会を見るようになり、かえって感情バランスを崩してしまう、というのです³

みなさんはどう感じられますか?喜びには危険な因子もある。賛成でしょうか?反対でしょうか?

知ってるだけで大きく変わる「喜びと感謝の違い」

そんな二面性を持つとされる「喜び」ですが、一方「感謝」には対立する感情がなく、持続的な中立性を保てる稀有な感情だと言われています。

みなさんは「喜び」と「感謝」の違いを言葉で表現できますか?私は初めはできませんでした。

学術的に「喜び(joy)」とは、

「思いがけない良い出来事に対する高揚感であり、活力を生み、遊び心や創造性を促進する感情状態」と定義されています⁴。

どちらかといえば一時的で、感情の波のように動的なものです。

それに対して「感謝(gratitude)」は

「自分にとって何が価値や意味を持つかを認識し、意識的に大切に思う感情」とされます。

単なる「心地よさ」ではなく、内省をともなう「思考を伴った感情」です。そして興味深いのは、「感謝」には“対立する感情”がないということ。

私たちがよく陥る「ポジティブ=善」「ネガティブ=悪」という単純な思考に支配されると、ネガティブ感情を無理に排除しようとし、その結果、心のバランスを崩しやすくなります。

一方、「感謝」は、そうした善悪の二元論から離れた場所に私たちを導いてくれる、いわば感情の中の“安全地帯”とも言えるのです。

感謝は”抗ストレス薬”になる

健康医学の観点から見ても、感謝は私たちのウェルビーイングを強力に支える、いわば“天然の処方薬”のような存在でと言えます。感謝の感情を多く持つ人は、

・睡眠の質が高い
・ストレスが少ない
・困難に対するレジリエンス(回復力)がある
・社会に貢献したいという向社会的な動機が強い
・仕事のパフォーマンスも高い(5~9)

さらに、うつ病、不安症、統合失調症への効果も報告されていて(10~13)

これだけ揃えば、もはや“感謝”は薬理的介入に匹敵する効果を持つのでは?と思いたくなるほど。

さらに、心理的な側面でも恩恵も多く報告されています。

感謝の気持ちを頻繁に表現するカップルほど関係性が良好で長続きしやすく、とくにハーバード大学の長期縦断研究(Grant Study)では、良好な人間関係が病気予防や長寿、人生満足度に強く関係することが明らかになっています。

恩師の健康の秘訣「感謝の日記」

私の恩師が90歳になってもされていたこと、それは「感謝の日記」でした。何十年もかけて書き留めたなん十冊にもなる「感謝の日記」を一度見させてもらったことがあります。

恩師は寝る前に、10-30個ほどのその日に会った感謝できることを綴り、「うふっ」と心を温かくさせてから眠りにつかれていました。

この「感謝の日記」は、誰でもどこでもできる効果の高い副作用もない安全な「カウンセリング自然手当」なので、私はこの何十年間カウンセリングの現場で、不登校からうつ病、高血圧から不眠のかたまで、幅広く、私はカウンセリングの現場でみなさんにお伝えしてきて、またその効果を感じています。

「感謝の日記」の書き方

感謝の日記のつけかたは非常にシンプルです。特別な道具も動きもいりません。鉛筆と紙があれば十分。あまりにシンプルなので、本当にこれがメンタルに効くの?と驚かれるかもしれませんが、うつ病を薬をなくすところまで軽減できたことで有名になった処方箋です(14)

向精神薬も、お酒もたばこも、韓ドラもアロマもラオケも、必要なくなるかもしれません。まずは10日間試してみて下さい。

一日の終わりに、一人になれる静かなところを場所を見つけ、次の3つの項目を各10―30個、書き出しましょう。そして、そこから何を感じたかをしっかり受け止めます。

1. 今日、恵まれていること
2. 今日、できたこと
3. 今日、誰かの何かに役立ったこと

万能の救世主「内観療法」

この感謝の日記の母体になっているのは「内観療法」という、日本で生まれた心理療法(Psychotherapy)です。「内観」という言葉は、「外」ではなく「内」を見るという意味で、ただ静かに、自分の過去と対話するシンプルなものです。

仏教思想を背景にもつ自己探求の技法で、英語でもNaikan Therapyで通じるほど世界的に有名になりました。

もう少し専門的に言うと、認知療法的な自己洞察型の心理療法(Cognitive / Insight-oriented therapy)。ある特定の人(母、父、兄弟、パートナー、上司など)との関係を「してもらったこと」「してあげたこと」「迷惑をかけたこと」の3つの視点で見つめ直し、人生を深く内省していきます。次第に今まで見えていなかった関係性が立ち上がってくるのです。

内観療法は戦後、吉本伊信(よしもと いしん)が独自に体系化した新しい技法ですが、今日では教育・医療・矯正・企業研修などさまざまな分野で実践されています。神経症、依存症、引きこもり、家族関係の問題、自己否定感 など幅広く効果が認められています。

私が内観に出会ったとき「自分の人生と、静かに向き合う7日間」

私が内観に初めて参加したのは、26歳のとき。アメリカ留学から帰国後、ひどい逆カルチャーショックに襲われ、「これは危ない」とカウンセラーである自分自身が察知したのがきっかけでした。

頭では自分の状態を理解していても、まったく心に届かない。

理解”と“納得”のあいだには、深くて静かな谷がある――そう感じた私は、導かれるように内観研修所の門をくぐりました。

半畳ほどの小さな空間で、朝から晩まで1週間、ひたすら「過去の自分」と向き合う日々。休憩はトイレと20分のお風呂、3食の食事と睡眠時。残りの時間はずっと内観に没頭でした。

数日後、言葉を話せなかった頃の赤ん坊の自分の記憶がよみがえったとき、私は自分の心の深層に触れていることを直感しました。記憶は書き換えられないけれど、“記憶の意味”は変わる。意味が変わることでそこに付随する感情、思考が変化し、それが現在を変えていく。内観とは、そんな心の大革命をもたらす時間なのだと今も思っています。

自己肯定感の重要性

内観療法や感謝の日記では、不完全な私たちの認知の歪みを修正していくのですが、その歪みがなくなった結果何が起こるかというと「感謝」という気持ちと「自己受容と自己肯定感の向上」です。

日本の文化では「他人に迷惑をかけない」「役に立つことが大事」という価値観が強く、それが強迫的な自己否定感につながることがあります。

内観では、自分が他者に迷惑をかけながらも受け入れられていたことに気づくため、「迷惑をかけたからダメな人間」という思考が緩和され、これが無条件の自己受容感、あるがままの自己肯定感につながります。

自己受容と自己肯定感は、体と心の回復力や生活満足感に直結していると言われています。どちらも幸福やレジリエンスに対して強く影響し合うものであり、心の土台として重要です。

 

近年の研究では、自己肯定感とは「自分を好きかどうか」ではなく、“どんな自分も生きる価値がある”という根源的な自己価値(basic self‑worth)が鍵だとされています、これはまさに「生きる力」につながり、心と体の健康の土台になる部分です。

なぜ今「感謝の日記」?

忙しさや情報に飲み込まれやすい今の社会で、「立ち止まって、自分の来た道を静かに見つめ直す」時間は、希少であり、贅沢でもあります。まして7日間の内観療法に参加するには、よほどの決心と財力も必要です。

その時間こそが、これから先の歩みを変えてくれる鍵になるのですが、忙しく家族を持つ現代人には敷居が高いものです。

そこで、寝る前の10分でできるこの「感謝の日記」はお金も時間もかからない、やる気さえあればできる最高の健康法になる。

毎日10分、自己内省をし自分の在り方を丁寧に見つめ直していると、“他者とのつながり“によって自分は価値ある存在だったという気づきを深めます。簡単に言えば、共に生かしあっている、という感覚です。

私はヨガも長くヨガも教えていますが、これがまさに「ワンネスOneness」の感覚です。

このプロセスは、自己肯定感の源泉である「安定した自己価値」を再確認する「宝の時間」になるはずです。今晩、この「感謝の日記」、一度試してみて下さい。明日の目覚めが変わってくるかもしれません。

<References>

1.Igna CV, Julkunen J, Vanhanen H. (2009), Anger expression styles and blood pressure: evidence for different pathways.  J Hypertens. 27(10):1972-9.

2.Kubzansky LD, Kawachi I. (2000).  Going to the heart of the matter: do negative emotions cause coronary heart disease?.  Psychosom Res.  48(4-5):323-37

3.A Dark Side of Happiness? How, When, and Why Happiness Is Not Always Good

4.Fredrickson, B. L. (2001).The role of positive emotions in positive psychology: The broaden-and-build theory of positive emotions.American Psychologist, 56(3), 218–226.

  1. Wood AM. Joseph S, Lloyd J, Atkins S. (2009). Gratitude influences sleep through the mechanism of pre-sleep cognitions. J Psychosom Res.  66(1):43-8.
  2. Sansone RA, Sansone LA. (2010). Gratitude and well being: the benefits of appreciation. Psychiatry(Dumont). 7(11):18-22.

7.Wood AM, Froh  JJ, Geraghty AWA. (2010). Gratitude and well-being: a review and theoretical integration.  Clin Psychol Rev.  30(7). 890-905.

  1. Grant AM, Gino F. (2010). A little thanks goes a long way: explaining why gratitude expressions motivate prosocial behavior. J Pers Soc Psychol. 98(6):946-55.
  2. Lambert NM, Graham SM, Fincham FD. (2009). A prototype analysis of gratitude: varieties of gratitude experiences. 35(9).:1193-207.
  3. ホルモン変化(上海・Frontiers in Integrative Neuroscience, 2025)

Naikan(内観)セッション後、唾液中のオキシトシンが有意に増加し、コルチゾールは減少した(ステレス反応の軽減)という報告があります。

11.抑うつ状態の方が集中内観後、BDI(抑うつ尺度)・STAI(不安尺うつ・不安への効果(鳥取大学・Daily Naikan Therapy, 2010)度)が6週・12週後も継続改善。継続的に日々内観を行った群では、改善が長期維持されたとのこと。

  1. 統合失調症への効果(上海Archives, 2024)

抑うつ状態の方が集中内観後、BDI(抑うつ尺度)・STAI(不安尺度)が6週・12週後も継続改善。継続的に日々内観を行った群では、改善が長期維持されたとのこと。

  1. ポジティブ感情・SOC(Sense of Coherence)向上(京都大学, 2015)

46名の集中内観体験者を対象に、自己効力感や人生の意味感(SOC下位尺度)が内観後に上昇。不安やネガティブ感情が減少し、問題解決型行動が促進されたという定量的な結果です。

  1. Emmons, R. A., & McCullough, M. E. (2003). Counting blessings versus burdens: An experimental investigation of gratitude and subjective well-being in daily life. Journal of Personality and Social Psychology, 84(2), 377–389.
    この研究では、被験者を3つの群に分けて、10週間にわたり週1回日記を書かせた:結果:感謝群は他の群に比べてより高い幸福感・楽観性・身体的健康感を報告。さらに、軽度〜中程度の抑うつ症状のある人々にも有意な改善が見られた。

 

 

Asanga:アサンガの森

アカデミックな心理学とヨガやアーユルヴェーダの『生きる知恵』を毎日に取り入れやすい形にして講座やコラムでお伝えしています。

大切なのは日々の生活のなかで無理なく続けること。生きる力、幸せをつかむ力をあげるために、今必要なことは何か?3つのアプローチよりみなさんの人生を総合的にサポートしています。

1.心を調える(本当の自分の声を聴く)
2.体を調える(柔軟性、強さ、バランス力のある体づくり)
3.場を調える(日々の暮らし方、生き方)


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